相続手続の基本的な流れ|相続開始から取得した相続財産の名義変更まで
相続が開始されると、相続人は多くの手続に追われることになるでしょう。取得する相続財産の内容を決めるためには遺産分割協議を行う必要があるのですが、その協議を行うために遺言書や相続人、財産の内容を調査しないといけません。
また、取得した財産の内容に応じて相続税の申告や名義変更の手続なども進めていかないといけません。
この記事ではこれら相続に関する手続について、流れに沿って説明していきます。
STEP1:遺言書の確認
相続開始後、遺産分割協議を行う前に必ず、“遺言書が作成されていないかどうか”を確認しましょう。
遺言書には遺産分割の方法であったり遺産分割の執行者の指定であったり、その他相続に関して重要な事項が記載されている可能性があります。
被相続人が所有していた財産がまとめて記されていることもありますし、先に遺言書を見つけておいた方が財産調査もスムーズに進みます。
こうした可能性があるため、遺言書が作成されていないかどうか、亡くなった方の自宅等を捜索してみましょう。
また、自宅で遺言書が見つかった場合でも、開封しないように注意します。
開封前に家庭裁判所に持っていき、「検認」と呼ばれる手続をとり、他の相続人と一緒に開封作業を進めなくてはなりません。
なお、亡くなった方が「公正証書遺言」として作成していた場合には、公証役場に原本が保管されています。この場合でも公証役場から遺言書の存在が通知されることはありません。相続人が公証役場に保管されている可能性を考慮して、遺言書検索システムを使うなどして自力で見つける必要があります。
自筆証書遺言保管制度を利用している場合は通知が来る
公正証書遺言のほか、もっとも一般的な遺言書のタイプとして「自筆証書遺言」があります。
自筆証書遺言の場合、自宅に原本が保管されている可能性が高いです。
ただ、近年「自筆証書遺言保管制度」ができたため、同制度を利用して法務局で保管をしている可能性もあります。
この場合、遺言者が通知相手を指定していれば、遺言書が保管されているという事実が通知されます(「指定者通知」という)。
STEP2:相続人の確定
相続人の確定も重要な過程です。
相続人は遺産分割の当事者となりますので、漏れのないよう、戸籍謄本を用いて網羅的に調査を進めていかないといけません。
そこで、亡くなった方の死亡~出生までのすべての戸籍謄本を収集していく作業に入ります。
戸籍を確認することで、被相続人の子や親、孫、兄弟姉妹などが把握できます。
被相続人が結婚・離婚、養子縁組などを繰り返している場合、作業は複雑化します。
取得すべき資料も増えてきますので、弁護士などの専門家に対応してもらうことが推奨されます。
STEP3:相続財産の調査
遺産分割の対象となる、相続財産の内容も確定していきます。
例えば次のような財産につき、調査を進めていきます。
- 現金
被相続人の財布の中にあるお金、銀行等の貸し金庫に保管してあるお金、その他自宅にひそかに保管されているへそくりなどもすべて相続財産になります。同時に、相続税の課税対象でもありますので、「タンス預金」にも注意して調査を進めましょう。 - 有価証券
株式や投資信託なども相続財産です。 - 不動産
自宅やその土地、事業用や賃貸物件として使っていた建物・土地などもすべての相続対象です。 - 自動車
登録制度に基づいて被相続人名義で登録されてある自動車などの財産も相続対象です。車検証などから登録名義がわかります。 - 貴金属類などの動産
登録制度に基づかない、その他一般の動産もすべて相続対象です。特に価額の大きい骨董品や貴金属類などの存在には注意して調査を行いましょう。
消極財産(マイナスの価値を持つ財産)についても相続対象となります。
そのため借金の存在も疑い、必ず調査を行うべきです。予想外に大きな借金を抱えていた場合、相続しない選択肢も検討することになります。
借金の存在を調べるとき、金融機関などの債権者から送られてきた書類や、通帳の履歴などを確認してみましょう。
あるいは信用情報機関に対する開示請求をすることで調べられることもあります。
STEP4:相続放棄・限定承認の検討
財産調査を行った結果、目立った負債もなく相続する価値があると評価できるなら、特に相続を受け入れるための手続を行う必要はありません。
勝手に相続を承認したことになるからです(これを「単純承認」という)。
一方、債務超過であることが明らかであるなど相続をすることのリスクが大きいと評価できるなら、「相続放棄」を検討します。
家庭裁判所に相続放棄の申述を行い、これが受理されれば、相続人としての立場を捨てて一切の財産を取得しないことができます。
ただし相続放棄は“相続開始を知ってから3ヶ月以内”に行わなければならないと、法定されています。
そのため財産調査にも速めに着手し、制限期間内に放棄の選択肢がとれる状態になっておくべきです。
なお、手段にはもう1つ「限定承認」もあります。
限定承認により、相続財産から負債を清算した後に資産が残っていれば、その範囲でのみ相続をすることができるようになります。
負債の存在が明らかでない場合など、相続することに対して不安が払しょくできない場合に検討すると良いでしょう。
ただし相続人の全員で手続を進めなくてはなりませんし、相続放棄同様、3ヶ月以内に行う必要があります。
STEP5:遺産分割協議
相続人も相続財産もはっきりすれば、遺産分割協議を行います。遺言書があるなら、指定されている分は遺言に従って取得することになります。
ただし相続人全員の同意があれば遺言内容と異なる遺産分割をすることも可能です。
遺産分割協議がまとまれば、“遺産分割協議書を作成”して終結となります。
遺産分割協議書の作成は、その効力発生のための条件になるわけではありませんが、実務上作成しておかないと困る場面が出てきますので必ず作っておきましょう。例えば名義変更の際、当該相続人が取得したことを証明する資料として用いることもあります。
また、相続人間で後々「言った・言わない」のトラブルを起こさないためにも書面化は大事です。
なお、遺産分割協議書の様式や書き方に指定はありません。
遺産分割協議でトラブルが起こりやすいため注意
相続手続でトラブルが起こりやすいのは、この遺産分割協議のタイミングです。
特に、「遺産の中に不動産があるケース」「相続人以外が参加するケース」では比較的トラブルが起こりやすいです。
不動産に関しては、現金のように簡単に分割ができないことが1つの原因です。
不動産を取得した人物だけが得をしてしまったり、逆に損をしてしまったり、相続人間でバランスを取るのが難しくなってしまうのです。
不動産の取得に際して金銭の授受を行ってバランスを取る方法もありますが、不動産を取得した方に現金の負担がかかってしまうなどの問題も生じますし、簡単には解決ができません。
相続人以外が参加に関しては、例えば相続人の配偶者、受遺者、その他親族の方などによる口出しの可能性が考えられます。
法的にはこれらの人物の同意を得る必要もないのですが、参加者が増えることで話し合いがスムーズに進まなくなることがあります。
こうした遺産分割協議に関する問題を解決する1つ手段に、「弁護士への依頼」が挙げられます。利害関係を持たない第三者、それも専門知識を持った人物が入ることで、話し合いがスムーズになるとともに不公正な遺産分割を防ぎやすくなります。
STEP6:相続税の申告と納税
各人、取得する財産が定まれば、その財産の価額に応じた相続税の計算を行いましょう。
遺産の総額が基礎控除額を下回っている場合には申告をする必要もありません。
法定相続人が1人なら3,600万円、2人なら4,200万円と、法定相続人の数に応じてその額は増していきます。
また、各人個別に利用できる控除や特例もありますので、この点、税理士に相談して正確な計算をしてもらうと良いでしょう。
なお、申告と納税は“相続を知った日から10ヶ月以内”に行わなければなりません。
STEP7:取得した財産の名義変更
取得した財産が現金や家財などの動産である場合、名義変更の手続は必要ありません。
しかし名義人として被相続人が登録されているものに関しては、名義変更の手続を要します。
例えば自動車、預貯金、不動産などです。特に不動産に関しては登記申請を行うことになりますし、登記がきちんとできていない場合のリスクが大きいです。司法書士などのプロに任せて対応してもらいましょう。
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